



母屋の玄関口には陶器類が今も残り、創業当時の商いぶりがうかがえる

茶の湯をたしなむ安藤さんの奥さまが、立派な茶室を今に受け継いでいる

増築したウッドデッキテラスの床下。自然災害に備えた基礎工事も万全
地域に根ざした住宅リフォームをメーンに手がける安藤嘉助商店。創業は明治16年と古く、陶器や雑貨などを販売していた当時から地元密着の姿勢は今も変わらない。創業当時営業していた重厚な母屋の中には、今も陶器皿などが数多く残り、昔ながらの佇まいを色濃く残す屋内には風格を漂わせる茶室も。当時の繁栄ぶりがそこかしこに垣間見える。
A様は、母屋の隣にありながらも近年は実質使われていなかった築130年超の大きな蔵を、自らの住空間としてリフォームすることを決意。息子さんの結婚後、共に暮らせる生活空間にという思いも相まって、蔵の全面改装とともに、LDKや浴室、トイレなどを増築することにした。
頑丈な梁や基本の棟など、もともとの構造部分はそのまま使えるとはいえ、大がかりな耐震設計なども必要となる。むろん、リフォームするよりも新築した方がコストも安く済むだろう。しかし、安藤さんの蔵に対する思い入れはそれよりも深いものがあった。代々受け継がれてきた蔵は、いわば先祖の歴史そのもの。長い時を経た柱や梁しか醸し出せない独特の味わいを、今後も受け継いでいきたいという熱い思いが、今回のリフォームへとを駆り立てた。その根底には、先祖への敬意もあるのだろう。
リフォームのメーンとなったのは、やはり蔵の再生。重厚な造りであるがゆえに、まずは耐震強度の増強が必須だった。従来の梁と柱を残しながら、高い天井部分の梁とそれに付随する柱を増やしたり筋交いを入れるなどして、内部を頑丈な二重構造設計にした。従来の蔵を一つの箱に例えれば、その外側にもう一つ箱を造ったようなもの。1階から階段を上がったところに造られた屋根裏部屋のような2階部分は、大容量の収納スペースとして使えるようになっている。独特の風合いを醸す梁や柱を間近で感じながら暮らす喜びは、訪れる者からしても想像に難くない。
一方、増築部分は建築士であるA様の次男が設計を担当。メーンスペースとなるLDKは、明るさと開放感たっぷりの空間に。壁や床に自然素材を使い、心安らぐ快適スペースを実現した。庭の向こう側には交通量の多い道路が通っているため、大きな引き戸と窓には、音を遮断できて結露防止効果もあるペアガラスがはめ込まれている。すぐ外側には広々としたウッドデッキテラスを備え、大人数でのバーベキューも楽しめそうだ。
蔵の部分と同様、増築部分についてもいつやってくるか分からない自然災害に対する備えは怠っていない。
リビングにできるだけ明るさを取り込みたいため、設計上では本来壁にすべき部分を窓にし、筋交いを入れる工夫で耐震性を維持。この筋交いの数は当初、職人さんが耐震性を万全にするべく、もっと多く入っていたという。しかし、自らの書斎を自分の手で建てたというほど建築に精通する安藤さんの考えでいくつか外したのだとか。
「筋交いは必要以上に入れず、地震の揺れの逃げ場を確保することも大切」と、明るさと耐震性を同時に実現したのがこのLDK。
さらに、河口近くに位置しているため、大量の水が押し寄せた場合は浸水の可能性もある。かつて実際に大水害を経験した安藤さんは、室内が浸水した時に備え、水を室外に排出する水中ポンプの設置も予定しているという。
先祖への敬愛と旧き良きものへの愛着によって見事に蘇った蔵。A様の新しい歴史が、再びここに刻みこまれていくことだろう。






